優勝選手が表彰式で “I’m sorry.” の前代未聞
2018年のUSオープン。
グランドスラムを果たした大坂なおみ選手が表彰式で”I’m sorry.”と口にしたことが話題を呼びました。というのも、この試合、対戦相手のセリーナ・ウィリアムズ(米国)が主審と言い争ったりラケットを壊したり・・・たびたびペナルティを科せられるという、荒れた展開になりました。そんな試合展開の中、セリーナを支持する(?)米国ファンが表彰式に至っても大ブーイングを起こしていた・・・というシチュエーションでしたね。
下記の動画は、その表彰式の異様な雰囲気と、ちょうど大坂なおみ選手が”I’m sorry.”と口にするところがわかります。6分過ぎから再生してみてください。
(大坂選手が挨拶した途端に、ブーイングが収まり歓声や拍手に変わっていくのがわかる。)
で、大坂選手がこの”I’m sorry.” と口にした真意は何だったのだろう?という点は多くの方が興味深く思ったところでした。
“I’m sorry.” の2つの意味と大坂選手の真意
まず、”I’m sorry.”には、2つの意味がありますね。
ー「残念です」(同情・共感)
ー「申し訳ありません」(謝罪)
で、彼女はどういう意味での”I’m sorry.”だったのか、翌日のニュース番組に出演した際に語ってくれていました。
3分30秒ぐらいから、トロフィーを受け取るときに”I’m sorry.”と口にした真意を話してくれていますね。
I know that the ending wasn’t how people wanted to be. In my dreams, I won like in a very tough, competitive match. I don’t know, I felt very emotional and I felt like I had to apologize.
要約ですが、
誰もが望んでいた結果ではなかったとわかってて。でも私は、夢のようなタフな試合で勝利したわけで、だから、よくわからないけど感情的になって、謝らなくては・・と。
と言っていましたね。このインタビュー通して、やっぱり大坂選手は「謝罪」のニュアンスを含みながら、”I’m sorry.”と口にしていたのだとわかりました。
彼女独特のパーソナリティがスピーチに現れた
で、そもそも、自分が悪くないのに謝まるということは、米国人でしたらまずないでしょう。この点に関して、お知り合いの英語講師、石渡誠先生がとても示唆に富んだ記事を寄稿されていたので、ご紹介します。
石渡先生は上記の記事で、「大坂なおみ選手の”I’m sorry.”が一般的な英語ネイティブスピーカーの答えではない」とし、「同じような意図で謙譲的に言う場合であっても、通常はsorryではなくthank youを使う」としながらも、「良いスピーチだった」とし記事の最後を、
彼女は独特のパーソナリティがありますからね。発想もユニークだし。我が強くてsorryを言わないアメリカ人のカルチャーからすれば、とても新鮮で、今までにないプレイヤーだと思われているのでは。
と締めくくっています。
この一文に「なるほどなぁ」と、改めて「言葉の理解」に必要な要素を感じたのでした。
「言葉」×「バックグラウンド」×「キャラクター」
つまり、単に英語という「言葉」だけではなく、当然ながらその人の「バックグラウンド」と「キャラクター」が言葉選びを決めていくわけです。
大坂なおみ選手で言えば、言葉選びの全てが、日本人とハイチのご両親を持ち、日本と米国で育ったという背景・そこで育まれたキャラクターを反映しています。
一方で、実は身近ところで、同じ言葉チョイスが行われているなぁ、と感じることも多いのです。例えば、「米国人はあまり謝らない」と言われるかのかもしれませんが、私の周りの日本在住米国人(他、カナダ人・英国人)の友人は、結構謝ってくれる事が多いです、笑。でもこれって、彼らは長く日本で生活しているからこそ身についた、コミュニケーション術なのかも?って思ったりします。
もちろん、私達日本人は「すみません」グセとも言える “Sorry.”ではなく、もっと”Thank you.”をもっとうまく使えるようになった方がいいのだとは思いますが、一方英語のネイティブスピーカーも言葉選びは人それぞれなんだろうなぁ、と。
言葉のことを考える時に、「言葉」×「バックグラウンド」×「キャラクター」で、枠にはまらないやり取りが発生するのだということを、今回の大坂なおみ選手のスピーチで、教えてもらった気がします。